『ウォーキング・デッド』といえば、今全米で絶大な人気を博しているドラマです。本作品を見ていると、ゾンビに襲われたらどうしようなんて妄想をすることが多いかと思います。拳銃はないし、クロスボウもそう簡単には手に入らない…。でも、骨董屋や美術館に行けばギリギリ日本刀は手に入るかもしれない。
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ミショーン(上記画像の左側の女性)のように、ゾンビをバッタバッタと斬り倒したい貴方に向けて日本刀の基礎知識をご紹介します。
1. 日本刀は切れ味抜群……だけど……
日本刀は、日本が誇る最強の武器です。達人に扱わせれば、車のドアを斬ったり拳銃の弾を両断したりと、鉄すらも切断してしまう威力だそうです。戦国時代においては鎧や兜を着ている上から兵士を斬っている訳ですから、圧倒的な武力を持っている一品であることが分かります。
ただこの日本刀、鋭い切れ味が持続しないという問題点を抱えています。人間を斬る時にはどうしても血や脂が付着してしまい、どんなに名刀であったとしても段々と斬れにくくなってくるそうです。合戦場では、数人斬った後には刀身から血をぬぐうそうですし、メンテナンスを怠るとすぐに錆びてしまいます。時代劇のワンシーンであるような、刀にポンポンと粉を叩いたり拭い紙で拭き取るなどがそのメンテナンスです。西洋の武器は重さで断ち切るため、ある程度切れ味が悪くなっても継戦能力は高いです。対する日本刀は、一撃の切れ味は高いものの、手間がかかる武器だったとも言えます。
『ウォーキング・デッド』のミショーンが、あれだけ振り回しても切れ味が落ちていないのは、隠れたメンテナンスの賜物なのかもしれませんね。
2. 日本刀の種類
日本刀の分類は色々あって、それこそ年代別や形状などにより色々な分け方が存在します。ここでは名称による分類をご紹介します。
- 剣(古くから伝わる両側が刃になった形状のもの。ヤマトタケルノミコトなどが持っているのはこのタイプ)
- 太刀(戦国時代まで流行した戦場用の刀。刀の先と根本で太さが違うのが特徴。七人の侍で菊千代が使っていたタイプの長い太刀は野太刀という名前で呼ばれています)
- 打ち刀(いわゆる江戸時代に流行した刀はこの種類です。一般的に骨董で売られている刀ですね。刀が反っており、腰に掛けた状態から刀が抜きやすく重さをかけて斬りやすい形状になっています。サイズ感においても太刀程長くなく、刃渡りが1m未満の物になります。※時代により70cm以下となることも)
- 忍刀(偵察任務に適した刀で、刃がまっすぐなのが特徴的。反りがない為、堀を上る際に体重をかけることができたり、背後からの刺突や首を切るのに適した刀です。いわゆる服部半蔵とかが所持する刀ですね)
- 長巻(太刀から派生した刀で、刀身の先と根本であまり太さに違いがない刃が長い刀です)
- 薙刀(一応こちらも刀の一種。いわゆる大奥などが使っているタイプの刀です。刀身を振り上げて使うイメージが強いですがテコと体の重心移動で足元などを斬りつける武器だったりします)
で、ミショーンの持っている刀はどれに分類されるかというと、恐らく打ち刀ではないでしょうか。断定できない理由としては、ミショーンの持っている刀や使い方が特殊な点です。まず柄部分が異様に長い。フィギュアなどでは刀身の反りが全くないものもあるし、初登場のシーンは忍者刀にすら感じられます。また馬に乗っている際にも刀を持つシーンがあります。馬に乗って効果的に戦えるのは基本的に太刀や槍になります。とはいえ、直近のシーンや女性でも振るえる点、レプリカのサイズ感、そして日本刀コレクターからの入手という点において、打ち刀という認識でいいのではないでしょうか。
3. 日本刀の評価
さてミショーンの刀が打ち刀とわかったところで別の分類をお伝えしましょう。刀は江戸時代より、切れ味という別評価軸が生まれました。主な分類は下記の通りです。
- 最上大業物
- 大業物
- 良業物
- 業物
あれ?この分類法ってワンピースなどで見た!という人も多いのではないでしょうか。刀を作る人ごとに切れ味を評価した結果が上記分類です(切腹の際の首の切り落としなどで刀を比較したとか)。ミショーンの一刀両断から見るに、切れ味については間違いなく一級品でしょう。使用者の太刀筋も見事と言うほかないですが、何よりの要因として、やはり刀自体が良いため切れ味が上等なのだと考えられます。そうすると、もしかしたら最上大業物の一振りと言えるのではないでしょうか?
「じゃあ、その最上大業物って値段はいくらなの?」
おそらく、上記評価を聞いた人が次に思う疑問だと思います。日本刀の評価は非常に難しく、「刀鍛冶が何振り刀を作ったか」や「歴史上の人物にどれだけ愛されたか」、「どのような使い方をされたか」によって評価は著しく変化します。そのため、大業物であっても最上大業物より値段が高いこともありますし、オークション時期や鑑定の裏打ちによって値段は激しく乱高下するとのこと。詳細な価格を調べる場合には、刀剣要覧という書物と直近の取引金額の照らし合わせが必要になるのですが、ざっくりミショーンの刀を下記の形で仮定しました。
①江戸時代前期の刀剣
②打ち刀
③使用歴なし(ゾンビを斬る前のコレクション状態)
④重要文化財扱いではない
⑤無銘
⑥極め(工房がほぼ特定できているもの)※
⑦著名な鑑定人による鑑定
上記条件で最上級大業物だった場合、最低価格が1,000万円~となるでしょう。ただし、(※)マークがついている極めの作風が誰が見ても近いことが条件であったりもしますが。『ウォーキング・デッド』の世界では、お金の価値がなくなり、命を守るためとは言え、芸術的な刀を振るっている訳です。ちょっと作品を見る目が変わるのでは?
『ウォーキング・デッド』シーズン8は2017年秋に放送予定!(詳細はこちら)