from LA かつて格下だったテレビは、今なぜ大物映画スターを惹きつけるのか

JALEE編集部

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20年ほど前、ハリウッドでは、映画俳優とテレビ俳優は、明らかに格が違っていた。テレビ俳優にとって、映画俳優と呼ばれるのは、大きな目標であり、厳しい夢。ジョージ・クルーニーやビル・マーレイ、エディ・マーフィーなど、テレビで人気を得た俳優がうまく映画にシフトした例もあることはあるが、数は少ない。

しかし、近年は、映画とテレビの境が薄くなっているだけでなく、どっちが上かもわからなくなってきている。ハリウッドのメジャースタジオが、冒険を恐れ、スーパーヒーロー映画や続編ものばかりを作りたがるようになる中、大人向けの人間ドラマや、若い美男美女が主人公ではないリアルな話を、オリジナルコンテンツに参入したケーブルチャンネルや、Netflix、Amazonなどが積極的に受け入れるようになったせいである。

例えば、日本でも放映中の「ホームランド」はショータイム、「ウォーキング・デッド」はAMCと、いずれもアメリカではケーブルチャンネルの放映。HBOと同じく月々の会費を取るプレミアムケーブルのショータイムは、先月アメリカで放映開始になった「ツインピークス」続編を確保したことで、最近、また急速に会員数を増やしている。

HBOとショータイムは、クオリティの高いオリジナル番組の走りだが、ベーシックケーブルのAMCはオリジナル製作においては後発。60年代のニューヨークを舞台に、昼間から酒を飲み、オフィスでタバコを吸い、不倫もやりたい放題の広告マンたちを描く「MAD MEN マッドメン」は、メジャーネットワークではありえない企画で、ケーブルでも厳しかった。受け入れたAMCは、これで初のエミー賞参加をすることになる。続いてAMCが受け入れた「ブレイキング・バッド」は、高校の化学の先生が、その知識を利用してクリスタル・メス(ドラッグ)を製造し、それを自分の生徒に売らせるという話で、これまた大胆だが、こちらも成功に終わる。

「ホームランド」でエミー賞を取ったクレア・デーンズ(上写真)はもともと映画女優だし、昨年は、ウィル・スミスとデビッド・エアー監督が、ワーナー・ブラザースなどメジャースタジオのオファーを蹴って、最新作「Bright」をNetflixで作ると決めたのも、話題になった。ブラッド・ピットの最新作「ウォーマシーン:戦争は魔術だ!」もNetflixなら、HBOのシリーズ「Big Little Lies」には、ニコール・キッドマン、リース・ウィザスプーン、シェイリーン・ウッドリー、アレクサンダー・スカルスガルドが出演する。

俳優や監督にとっては、メジャースタジオの下で作るよりずっと多くの自由をもらえるというのも大きな魅力。映画より安く、便利なので、もっと多くの人に見てもらえるという利点もある。メジャーネットワークでも、最近は、黒人キャスト中心の「Empire」のように冒険する例は出てきているが、基本的にメジャーは、視聴率が悪いとすぐに打ち切られてしまう。一方でケーブルやNetflixは、1シーズンは確約してくれるのだ。そういった背景のもと、偏見も減り、俳優や監督は、素直に条件を見て、組む相手を決めていくようになってきたのである。この流れは、おそらくもう止められないだろう。その結果、アメリカのテレビのルネサンスが今後ますます開花していくことは、間違いない。

 

猿渡由紀/L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、日本のメディアに寄稿。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。