人気海外ドラマ『ウォーキング・デッド』、シリーズ最新作となるシーズン8公開まで、ついに残り1か月となりました!超有名作の台頭で世界的にますます盛り上がりを見せるゾンビブーム、勢いは衰えることを知りません。しかし、その煽りを受けて皆さん忘れてはいませんか?『ウォーキング・デッド』の陰に隠れながらも、次々に現れる新しいゾンビ作品の土台となっている名作が多く存在することを。
現在一世を風靡している人気作も、様々な変遷をたどって成長してきたゾンビ作品史の上に立っているのです。FOXヘビーウォッチャーの皆さんがゾンビにお詳しいことは百も承知ですが、ゾンビと言えば『ウォーキング・デッド』だけではないということを思い出すとともに、ゾンビのバリエーションはココまで来た!ということを改めてふり返ってみませんか?
2017年7月に亡くなった、現代ゾンビの生みの親ジョージ・A・ロメロ監督への追悼の意味も込めて、今回はあえて、怖いけど笑えるゾンビ映画を中心にご紹介します。
1. ゾンビコメディーはここから始まった!『バタリアン(1985年)』
「オバタリアン」という言葉を耳にしたことがあると思います。あつかましい中年女性の姿を揶揄的に表現した混成語なのですが、実は元をたどるとこの『バタリアン』とオバサンを掛け合わせた言葉なのです。そんな、広く普及する表現を生み出すほどに社会現象となった、ゾンビコメディーの決定版とも言うべきこの作品。日本では1986年に公開された映画なので、もう30年以上前の作品ということになります。
「30年も昔の映画、ほんとに面白いの?」と疑う人もいるでしょう。けれど本作は今見ても笑えるし、むしろ「30年前にもうこんなアイディアがあったのか!」と驚いてしまうような工夫が盛りだくさん。『ウォーキング・デッド』を始めとする「ゾンビ作品お決まりのパターン」をことごとく裏切っていくシュールな展開は、ゾンビ好きの人であればあるほど爆笑必至です。
本作は『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド(1968年)』(ジョージ・A・ロメロ監督の最初のゾンビ映画)という先駆的なゾンビ作品のパロディにして正式な続編であり、非常に珍しい位置づけの物語。ゾンビ映画マニア必見の作品ですよ!
2. 世界を救うのはおじいちゃんとおばあちゃん?『ロンドンゾンビ紀行(2012年)』
イギリス製ゾンビ、というと真っ先に思いつくのは『ショーン・オブ・ザ・デッド(2004年)』ではないでしょうか。「アメリカと違ってイギリスには武器になるものや立てこもるホームセンターがないのでゾンビ映画のようにうまくいかない」という、期待を裏切る展開が続くコメディ作品です。
このように、イギリスを始めとするヨーロッパのゾンビ映画は、アメリカのゾンビ映画とはひと味違うツイストを加えてくるのが特徴で、そこに楽しさがあります。
特におすすめなのが『ロンドンゾンビ紀行』。おじいちゃんとおばあちゃんがゾンビと戦うシルバーゾンビ映画です。イギリスゾンビ映画として名高い『28日後…(2002年)』は感染速度がとにかく速く、感染者は全力疾走で追いかけてくるというスピード感が肝となっていました。しかし本作はあえてその真逆を突く、低速ゾンビに追いかけられる足腰の弱い老人たちという構図。シュールな絵面に笑いがこらえきれません。
それだけでなく、か弱いと思っていた老人たちがゾンビと戦うことによってイキイキと目を輝かせ、生きる気力に満ちあふれていく過程が微笑ましくも痛快なのです。「人間はただ心臓が動いて呼吸をするだけでは生きているとは言えない」「何かを成し遂げることでようやく生きていることを実感できるのだ」という人間賛歌。とにかく、元気いっぱいにゾンビへ立ち向かうおじいちゃんおばあちゃんがカッコいいんです!
3. 世界よ、これが和製ゾンビだ!『アイアムアヒーロー(2016年)』
海外ドラマ、映画のゾンビに親しみが深い方には、日本のゾンビはぬるいと思っている方もいることでしょう。しかし『アイアムヒーロー』は、「和製ゾンビもついにここまできたか!」と感動で打ち震えてしまうほどの作品です。
とはいえ主人公である鈴木英雄(大泉洋)は、アメリカ映画の主人公のようにカッコよくはなく、いかにもステレオタイプで弱々しい男。その怯えた表情、自信のなさには、見ているだけでフラストレーションがたまります。「ああ、この男はなんて情けないヤツなんだ」と誰もが思ってしまうことでしょう。
ですが、まったく特別じゃない、急に騒動の渦中に放り込まれた男として、英雄の姿は実にリアリティがあります。さらに近年まれに見る気合いの入ったゾンビ造形と、舞台が日本であるということで生じる奇妙な実在感にゾッとし、急激に映画の世界観に引き込まれてしまうのです。これは海外映画ではなかなか味わえない感覚。特に感染が徐々に拡大し、街中が日常から非日常へと転換していく流れは見どころです。
変化した街並みの中、様々な困難を乗り越え、クライマックスでついに覚醒した英雄が見せるフルスロットルの活躍には、思わず落涙してしまうかも。日々の鬱屈を、すべてこの主人公が肩代わりしてくれるようなカタルシス!これが日本のゾンビ映画です!
4. B級 is 最高!『ゾンビマックス! 怒りのデス・ゾンビ(2014年)』
いかにもB級感漂う邦題ですが、中身もまさしくその名の通りのザ・B級映画。すがすがしささえ感じる安っぽさ、それこそが面白く、むしろ醍醐味でもあるのです。ゾンビ映画の楽しさのひとつは、観客を裏切る展開や今までにないフレッシュなアイディアを盛り込めるかどうか。そんな、見る側と製作側の駆け引きも魅力と言えるでしょう。
その点、本作は王道のストーリーから始まり、振り切ったようなオマージュがこれでもかというほど盛り込まれ・・・ここまでだったら本当にただのB級映画。しかしこの作品はそれで終わることはありません。物語中盤からオリジナリティーが爆発し、驚きの展開が連続するのです。
詳細はネタバレになってしまうのでご覧になっていただきたいのですが、「この設定を思いついたからこの映画を作りたかったのでは?」という感じがビシビシ伝わってきます。こういった新しい切り口でゾンビ映画が作られているということは、新しいゾンビ設定を真剣に考え続ける人が世界中にたくさんいるということ。頼もしいような微笑ましいような、妙に感慨深い気持ちにさせてくれる作品です。
5. 世紀末版ロミオとジュリエット『ウォーム・ボディーズ(2013年)』
時代はとうとうここまできた・・・。ゾンビと逃避行を繰り広げるまさかの世紀末ラブストーリー!「ただしイケメンに限る」とはよく言ったもので、それはゾンビにも適用される言葉。逆に言うとイケメンであれば、ゾンビとだって恋愛が成立しちゃうってこと!主人公Rを演じるのは世紀の美男子ニコラス・ホルト。ゾンビメイクでどんなに顔色が悪くとも、その端正な顔立ちを隠しきることはできません。
ニコラス・ホルトといえば、『マッド・マックス 怒りのデス・ロード(2015年)』のニュークス役、そして『X-MEN: ファースト・ジェネレーション(2011年)』シリーズのビースト役でもおなじみ。顔面偏差値が高い割になぜか女性とのコミュニケーションがうまくいかない男子、それがニコラス・ホルトです。本作でもゾンビでありながら、コミュ力低い系男子を見事に演じています。ゾンビの一人称視点で描かれる、死人ならではの悲喜こもごもが時におかしく、時に切なく胸に刺さります。
また本作はなんと、ロミオとジュリエットをベースに作られているというから驚きです。全く新しいゾンビ像が提唱された貴重な作品だと言えるでしょう。
+α これを見ずしてゾンビは語れない・・・!『ゾンビ(1978年)』
ゾンビの生みの親であるジョージ・A・ロメロの代表作にしてキング・オブ・ゾンビ映画と名高い作品。この作品がなければ全てのゾンビ作品、もちろん『ウォーキング・デッド』も生まれてこなかったと言われています。1978年にリリースされた本作は、ぐっとスローなテンポで進みます。現代のゾンビ作品に慣れ親しんでいる方々の中には、もしかしたら少々もの足りなさを感じてしまう人がいるかもしれません。
それでも本作は人々を引きつけてやみません。ロメロ監督作品の優れている点、そのひとつはゾンビを通して、社会背景を映しこんでいることだと言われています。この『ゾンビ』もまたしかり。少しずつ、しかし確実に崩壊していく世界。ゆっくりと人間たちに迫りくる死者の群れ。原題の『Dawn of the Dead』は死者たちの夜明けが近いことを告げています。絶望的に美しい夜が明ける瞬間、それがすべての始まりなのです。
いかがでしたか?続々とハイクオリティーなゾンビ映画が制作される昨今、昔の作品と見比べると今までと違った楽しみ方ができますよね。また『ウォーキング・デッド』の中にも、過去に作られた映画のオマージュを発見できるかもしれませんよ。
ジョージ・A・ロメロ監督に哀悼の意を表するとともに、それでもいつか彼が墓の中からよみがえってくれることを、私は期待せずにはいられません。
— George A. Romero (@GeorgeARomeros) 2017年7月16日
ジョージ・A・ロメロ公式Twitterアカウント(@GeorgeARomeros)より
ゾンビ好きならチェックしておきたい『ウォーキング・デッド』は、最新作となるシーズン8を1か月後の2017年10月23日午後10時から、FOXが日本最速で独占放送します(詳しくはこちら)。