テイラー・スウィフトが、いつもと違う群衆の前に立った。そしてこの意外な場所でも、支持を得ることになった。
先週、彼女が立ったのは、ステージではなく、デンバーの法廷。争点は4年前、コロラド州デンバーでのコンサート前に彼女が男性ファンと写真を撮った時、彼にお尻を触られたかどうかだ。その男性は、デビッド・ミューラーという名の、地元ラジオ局のDJ。この出来事の後、スウィフトの母とマネージャーが彼の職場にこのことを伝え、彼はクビになっている。次の職を探すも、どこからも雇ってもらえず、事件から2年後、ミューラーはスウィフトに300万ドルの損害賠償を求める訴訟を起こしたのだ。スウィフトも受けて立ち、彼をセクハラ容疑で逆訴訟した。
裁判は民事で、陪審員は男性2人、女性6人。陪審員の選考にはミューラーも同席し、候補者たちに「テイラー・スウィフトのコンサートに行ったことがあるか」「彼女のアルバムを買ったことがあるか」などの質問をしたという。自分が彼女の体に触れたかどうかについて、ミューラーの言うことはそれまでにも何度か変わっているのだが、裁判でも彼は、「うっかりあばら骨に触ったかもしれない」と言い、意図的に彼女のお尻を触ってはいないと主張した。 スウィフトは、彼がスカートの中に手を入れて、お尻のお肉を直接しっかり握ったと反撃。「すごく長い間で、わざとやっているのは明白だった」と述べた。彼がこの出来事のせいで職を失ったのも、「そんなことは知らなかったし、それは彼がやろうと決めたことのせいであって、私は関係ない」と語っている。問題の写真が正面から撮影されており、背後の手が見えないことから、これが証拠となりえるのかどうかが論議されていたが、スウィフトのボディガードと現場にいたカメラマンが目撃証言をしている。
陪審員は、ミューラーに、スウィフトに1ドルを払うことを言い渡した。これは、最初から彼女が求めていた金額。この人を自己破産させることが訴訟の目的ではないという理由からだ。判決後、スウィフトは、「幸いにも私は、こういった裁判代を支払うことができます。 声を上げられない人たちを支援していきたいというのが私の願い。近々、私は、性暴力の被害者が自分たちのために闘えるよう、複数の団体に寄付をするつもりです」との声明を発表した。常にゴシップ紙に話題を提供する恋多き女に、こんなヒーローの側面があったとは、ちょっとうれしい話ではないか。

猿渡由紀/L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、日本のメディアに寄稿。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。