【追悼 ジョージ・A・ロメロ】ゾンビ映画に見る
継承の歴史とは

大石直人

1993年生まれ。少しでも映画やドラマを見る際に参考となる記事が書けるよう頑張ります。

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2017年7月16日にゾンビ映画の巨匠ジョージ・A・ロメロが永眠しました。彼は現在の映像作品に登場するゾンビの腐った体や動きなどの原点を生み出し、映画界に多大な影響を与えました。この記事では、『ゾンビ(1978年)』を始め、数多くのロメロ映画において特殊メイクアップアーティストとして活躍したトム・サヴィーニとロメロの関係を基軸に、ゾンビ映画継承の歴史をご紹介したいと思います。

1. 両雄の出会い~スプラッター映画の夜明け~

ロメロは1940年に生まれ、アメリカのカーネギーメロン大学を卒業後、CMなどの映像作品を手掛けていました。その後に監督した『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド(1968年)』はゾンビ映画の記念碑的作品となり、今なおたくさんの映画ファンに愛されています。
 


トム・サヴィーニ公式アカウント(@THETomSavini)より
 
一方、1946年に生まれたサヴィーニはロメロと同じくカーネギー・メロン大学の出身です。卒業後2人は出会い、初めてタッグを組んだ作品が、『マーティン(1977年)』です。こちらの作品は吸血鬼である青年マーティンの孤独と苦悩を描いた作品でした。続いてこの2人のコンビにより制作された映画が『ゾンビ(1978年)』です。ゾンビというジャンル、そしてスプラッターという過激な表現で消費社会への風刺を盛り込んだこの作品は大ヒットを記録しました。

1980年代に入るとビデオブームの波に乗り、スプラッター映画が流行しました。その中でサヴィーニは『13日の金曜日(1980年)』など、次々に傑作スプラッター映画の特殊メイクを手掛けました。他方でロメロとのコンビも続き、『クリープショー(1982年)』や、ロメロ監督作において『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』『ゾンビ』と並びゾンビ映画三部作と称される『死霊のえじき(1985年)』を制作しました。

このように、ロメロはカルト界の巨匠として、サヴィーニはゴア描写(血しぶきが飛び散るようなグロテスクな描写)の帝王として、2人はホラー映画において活躍してきました。

2. 90年代~スプラッター映画の衰退~

ロメロは90年代に突入してから、オムニバス映画『マスターズ・オブ・ホラー』の一遍やホラー作家スティーヴン・キング原作の『ダーク・ハーフ(1993年)』を監督していますが、ゾンビ映画を撮ることはありませんでした。その理由はホラー映画の人気の低迷が関係していたのかもしれません。他方で、第64回アカデミー賞主要5部門を受賞したジョナサン・デミ監督の『羊たちの沈黙(1991年)』の登場により、「サイコサスペンス」と呼ばれる新たな領域が生まれました。

一方、サヴィーニは俳優としても数々の作品に出演しています。ロメロ作品を始め、クエンティン・タランティーノ監督の『フロム・ダスク・ティル・ドーン(1996年)』などが有名です。さらに1990年には監督デビューを果たすなど、精力的に活動していました。

3. ロメロの復活~ゾンビ再び~

2005年に、約20年ぶりとなるゾンビ映画『ランド・オブ・ザ・デッド』をロメロが監督し、デニス・ホッパーやアーシア・アルジェントなど実力派俳優たちが出演し、サヴィーニも特殊メイクアップアーティストではなく、俳優として本作に出演しました。
 

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その後もロメロは『ダイアリー・オブ・ザ・デッド(2007年)』、『サバイバル・オブ・ザ・デッド(2009年)』とゾンビ映画をたて続けに監督したことにより、本格的な再始動を世界にアピールしました。さらにこの頃には、ザック・スナイダーやイギリスのエドガー・ライトといった若手の映画監督たちがゾンビ映画を撮り、多くのゾンビ映画ファンを沸かせたことは間違いありません。こうしてゾンビはゼロ年代に見事復活を遂げました。

4. ニュージェネレーション~継承される意志~

FOXで放送している『ウォーキング・デッド』がアメリカのみならず日本でも爆発的にヒットしており、ご存知の通り最新作シーズン8が10月23日より放送スタートします。

本作で特殊メイクを務めているのが、グレゴリー・ニコテロです。ニコテロは長年サヴィーニの下で特殊メイクの腕を磨き、前述した『死霊のえじき』では助手として参加していました。その後ロメロの『ランド・オブ・ザ・デッド(2005年)』、『ダイアリー・オブ・ザ・デッド(2008年)』では特殊メイクを担当し、フレンチ・ホラーの鬼才アレクサンドル・アジャの『ヒルズ・ハブ・アイズ(2006年)』も手掛けました。ロメロとサヴィーニが生み出し、社会現象にまでなったゾンビ映画が、時を経て、その2人の後継者とも言えるニコテロの手によってドラマという形をとり、再び社会現象を巻き起こしているのです。
 


グレッグ・ニコテロ公式Instagramアカウント(@gnicotero)より
 
このように大ヒットを記録している『ウォーキング・デッド』ですが、作り手の側においても、ドラマの本編に負けないほどドラマチックな関係があったことを知ると、本作がさらに楽しめること間違いなしです!

みなさんのお気に入りの映画やドラマの裏側を調べてみてはいかがでしょうか。もしかすると意外な発見があるかもしれませんよ。

『ウォーキング・デッド』シーズン8は、FOXチャンネルにて、明日10月23日(月)午後10時からついに放送スタートです!(同時間にて毎週放送。詳細はこちら)。