ずっと昔から静かに愛されてきたものが、今、あらためて脚光を浴びている。若者たちやスーツを着たエリート、おしゃれなママさんたちの間で「瞑想」がちょっとした流行りなのだ。
かつては、どこか遠く離れたところに何日かこもって学ばないといけないというイメージがあったが、近年は便利な場所に、高級ヘアサロンかと間違うほど洗練されたインテリアの瞑想専門スタジオがオープンし、賑わっている。ヨガスタジオも単発の瞑想ワークショップを開催しているし、初心者にやさしいアプリもいくつか登場した。「これ、行ってみない？」と気軽に友達を誘える環境が整ったのである。
L.A.にオープンした、おしゃれな瞑想スタジオ「Unplug Meditation」
住所：12401 Wilshire Blvd #101, Los Angeles, CA 90025
さらに、ハリウッドセレブが後押しをしている。デヴィッド・リンチ、ジョージ・ルーカス、リチャード・ギアなど、ハリウッドには、何十年も瞑想を実践してきている大物が何人もいる。だが、近年はエマ・ワトソン、ミーガン・フォックス、ミランダ・カー、ケイティ・ペリーなど、次の世代のセレブが瞑想への愛を公言し始めたのだ。
エマ・ワトソン公式Instagram(@emmawatson)より
エマ・ワトソンは、指導者の資格も取得している。彼女によれば、仕事、大学、国連の活動などで多忙な毎日を乗り切れたのは、瞑想のおかげなのだそうだ。「瞑想をやると、自分にはもっと時間があると思えるようになるの。ストレスが減って、無駄が減る。集中力も高まる。脳の切り替えがすんなりできるようにもなる。逆に、外から自分を遮断したい時は、そうすることもできる」と語るワトソンは、「誰だってストレスには悩まされている。でも、そんな時、自分はどうするべきかと私は知っているの」と、瞑想に感謝する。今や3人の男の子の母となったミーガン・フォックスは自宅で実践しているようで、ラベンダーやバニラのエッセンシャルオイルを額につけてやるということである。
だが、44年も毎日瞑想を実践してきたデヴィッド・リンチにしてみたら、「まだ始めたばかりの若造が、何を言っているのか」という感じかもしれない。リンチが瞑想に出会ったのは、『イレイザーヘッド（1976）』で映画監督デビューするより前の、1973年7月1日、午前10時半だそう。初めて超越瞑想（TM）を体験したその時のことを、彼は「エレベーターに乗っていたら、突然ロープが切れたような感じだった。僕は、すごいスピードで、下へ下へと落ちていったんだ。そして、すごい喜びが押し寄せてくるのを感じた。どうして自分はこれまで瞑想をやらなかったのだろうかとも」と振り返っている。
デヴィッド・リンチ・ファンデーション公式Instagram(@davidlynchfoundation)より
この素晴らしさをできるかぎり多くの人に知ってもらうべく、彼はデヴィッド・リンチ財団を創設。DV被害者や服役囚、貧しい地区の子どもたちに、無償で瞑想を教える活動をしており、リンチ自身も実際に足を運んだりしている。その子たちのほとんどは、リンチが誰なのかも知らないだろう。それでも、彼のおかげで何人かの子が少しでも生き方を変えることになったのだとしたら、すごいことではないか。セレプパワーは、こんな直接には見えづらい形でも、発揮されるのである。
猿渡由紀/L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者（映画担当）を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、日本のメディアに寄稿。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。