90年代恋愛漫画の金字塔、実写化に奇才が挑む
『blue』『strawberry shortcakes』などが実写化されたことでも知られる漫画家、魚喃キリコの代表作『南瓜とマヨネーズ』。恋愛漫画の金字塔との呼び声高い本作が、ついに実写化。今回5年ぶりに主演を務める臼田あさ美は、彼氏のせいいち(太賀)と、大好きだった元彼のハギオ(オダギリジョー)との間に揺れ動く主人公ツチダを演じています。

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
作品概要
ツチダ(臼田あさ美)は同棲中の恋人・せいいち(太賀)のミュージシャンになる夢を叶えるために、せいいちには内緒でキャバクラで働き、生活を支えていた。一方、曲が書けずスランプに陥ったせいいちは働きもせずに毎日ダラダラと過ごす日々。しかし、ツチダがキャバクラの客である安原(光石研)と愛人関係になり生活費を稼いでいることを知ったせいいちは、心を入れ替えて働き始める。そんな矢先、ツチダは今でも忘れられない昔の恋人、ハギオ(オダギリジョー)と偶然の再会を果たす。過去の思い出にしがみつくようにハギオにのめり込んでいくツチダだったが・・・。

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
監督の冨永昌敬さんインタビュー
約20年の時を経て実写化された『南瓜とマヨネーズ』。本作のメガホンを取り、過去に『パビリオン山椒魚(2006年)』『パンドラの匣(2009年)』『ローリング(2015年)』などを手がけた奇才として高い評価を得ている冨永昌敬監督にインタビューして参りました!

実写化するからには「自分の映画」に!
もともと原作者の「魚喃キリコ」さんとは親交があったそうですが、改めて今回、十数年前の漫画である『南瓜とマヨネーズ』を実写化しようと思った理由は何ですか?
口約束だったので。明確な理由はないんですよね。「実写化できたら面白いね」っていうぐらいで。とはいえ「自分が作って面白くなるのかな」とか悩んだりもしたわけですよ。友達だからこそ真面目に考えたんです。
自分がやらせてもらう以上は原作のまんまではなく自分の映画にしなきゃいけないし、無責任なことはしたくなかったので。自分との戦いですね。

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
あえてドロドロした感じを出そうというより、皆さん現実的で自然な演じ方をされているように思えたのですが、演技を指導する際に俳優さんたちにお願いしたのはどんな点ですか?
前もってそういった相談をしたことはあまりなかったと思います。そのキャラクターの人物像をどう作るかというよりは、その場面をどう展開すれば、もっとせいいちが惨めになるかとか、そのつど考えて作ったりはしました。

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
皆さん自然体で見やすいお芝居をなさっているのが印象的だったので、前もっての指導がなかったというのは驚きました!
「この人はこんな人です」みたいな、全体に通底するようなキャラクター付けはあまりしていなくて。現場で作り上げていった感じですね。

開き直りが大事!?原作には頼らないスタイル
90年代の雰囲気を現代の設定で映画化するにあたって、大変だったことはありますか?
ないですね。下北沢の駅が改装された時に「もういいや」って思ったんですよ。ツチダとハギオの再会にふさわしい場所として下北沢駅がなくなった時点で考え方をシフトして。

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
リニューアルされて、相当変わってしまいましたもんね。
駅でバッタリというのはよくあることですごくリアリティーがあるんですけど、今の新しい下北沢駅でそれをやっても時代が変わったことしか印象に残らないので。駅が変わったことで吹っ切れたというか、より「原作に頼らない」という考え方になりました。
例えば、原作にはツチダとハギオが東京タワーでデートしたシーンがありますよね。東京タワー自体に役割という役割はなくても、ありふれた観光名所に行くっていうものすごくお粗末なデートコースがあの2人にはぴったりだと思ったんです。

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
原作も読ませていただきましたが、確かにそのシーンはとても印象的でした。
だけどスカイツリーができたことで、東京タワーの位置付けが変わりましたよね。今、原作のように東京タワーに行ってしまうと、東京タワーからスカイツリーを見るような構図になってしまう。だからといってあの2人をスカイツリーに行かせるっていうこともしたくなかった。だから原作ではキーアイテムとなっていた東京タワーのキーホルダーが、映画の中には出てこなかったんです。
現代の設定で映像化するにあたって、原作の雰囲気を大事にするからこそ、そぎ落とした部分があったんですね!

「せいいちをもっと無様にしたかった」男たちの事情を描く意図とは
居酒屋でのせいいちと元バンド仲間のやりとりなど、現実にもありそうなセリフやシチュエーションが多く見受けられましたが、それは意識的に作られたのですか?
現実味を出すというよりは、せいちゃんをもっとみっともなくしたかったんです。

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
無様で悔し涙を流すような姿を描きたかった。原作のイメージではひどい思いをするのはツチダだけなんですけど、実写化するとなると「男たちの方には何があったの?」って原作に対する問いが自然に生まれてきて。
原作では元バンド仲間は1人で、せいいちが説教をされるような形で終わって、反論もせずに「今日こんなことがあったよ」ってツチダに話す。そしてしばらくたってからテレビで仲間がギターを弾いているのを見るんですが、映画ではこの辺りを突っ込んでやりたかったんです。
なるほど。確かに映画版ではこの辺りが深く描かれていた気がします。
この辺りのせいいちの悔しさみたいなものをもっと見せたかったし、漫画だとせいいちが被害者みたいになっているのですが、実写ではせいいちがだらしない風に見せたくて。だから元バンド仲間の数を増やして、ダメ男のせいいちに対してバンド仲間が気を遣ってる様子を描いたんです。
映画版では、新人ボーカルの女の子以外みんな元メンバーという設定でしたね。納得しました!

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
せいいちがどうして音楽をできないのかはよく分からなくて、本人もなぜ自分がだらけてしまうのかが分かっていない。作らなくて良い棚を作ったり、そこまでしなくて良いのにバイトを3個もかけもちしてしまったり、本当はやりたいはずのことをやれないジレンマみたいな部分を掘り下げたかったんです。
なるほど。原作以上にせいいちにスポットが当てられていた気がしたのはそういった理由だったんですね。
ハギオの方も、自分の映画にはこんなにかっこいい人は出てこないって思ったんです。だから逆にもっともっとダメだったら許せるんじゃないかって。ハギオがちょっと怖いんです(笑)。少なくとも僕はそういうタイプの男性に出会ったことがないので。
人物像を脚色してしまった部分があるとは思うのですが、それをやらせてもらってこそ映画作り。そういった部分を原作者の魚喃さんが面白がってくれたので、ホッとしました。

原作よりもリアルな2人の距離
エンディングを原作と変えたのは、どういった意図がありましたか?
その後どうなるかは分からないけど、そんなにさっさと復縁はしないだろうという思いからああしました。原作の方も「めでたしめでたし」というよりは含みを持たせた終わり方をしているんですが、これまでの過程で相手のことはよーく分かったと思うんですよ。せいいちの歌を最後にやっと聴くことができたからといって、また一緒に暮らせるとは到底思えなかったので。

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
確かに、現実的に考えても、あんなにゴタゴタして同棲まで解消した2人がすぐに戻ることは難しいですよね。
そんな簡単にハッピーエンドにしてしまって良いのかって思ったんです。原作の方もそこは慎重に考えてると思うし、それを映画の方で復縁させてしまったら台無しだろうと。原作よりも2人の距離をきちんと作ったつもりです。
この映画としては、ここから先は考えてないです。2月のライブに行く約束はしているので最低1回は会うと思うんですが、復縁はしないんじゃないですかね。

女性目線を「分かったフリ」はしない。原作に負けない映画作りを!
原作はほぼ女性目線で描かれた『南瓜とマヨネーズ』ですが、映画は男性目線も入っている印象です。
そこが映像化の良い部分でもあり悪い部分でもあると思うのですが、キャラクターの見せ方は男性目線になるよう作り込んでますね。そうでもしないと自分の映画にできないと思ったんです。女の人のことは分からないし、分かったフリはしたくなかったので。

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
今回、原作者は女性、映画版の監督は男性ということで、そういった意味では両方の目線から見ることができる作品に仕上がっているという印象を受けました。
自分がオリジナルで脚本を作った場合、女性のキャラの行動や発言について「僕は男だから分からないんで」とは言えないわけですよね。原作者と監督が異性であったり、主人公と監督が異性であったりということは珍しいことじゃないので。この漫画を好きな人たちが大勢いることは当然分かっているのですが、原作ファンの方たちが支持していた部分と見方が違っていたということはあるかもしれませんね。

(C)魚喃キリコ/祥伝社・2017『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
原作と映画のそういった違いも楽しんでいただけたら、という感じでしょうか?
というよりも、強気で言うと「負けたくない!」って気持ちが強かったです。
わぁ、素敵です!原作ファンの方々に遠慮することなく、ということですね!
そうですね。原作者を知っているので、それくらいの気持ちでいかないとって思って。
顔色をうかがわずに自分の映画を撮ろうという意気込みがあって、このような素敵な作品が出来上がったのですね。本日は貴重な話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

冨永 昌敬
1975年生まれ、愛媛県出身。おもな監督作品は『亀虫』(03)、『シャーリー・テンプル・ジャポン・パート2』(04)、『パリビオン山椒魚』(06)、『コンナオトナノオンナノコ』(07)、『シャーリーの好色人生と転落人生(共同監督)』(08)、『パンドラの匣』(09)、『乱暴と待機』(10)、『庭にお願い』(10)、『アトムの足音が聞こえる』(11)、『ローリング』(15)、『マンガをはみだした男赤塚不二夫』(16)、ドラマ『目を閉じてギラギラ」(11/BeeTV)、「ディアスポリス 異邦警察』(16/MBS)など。公開待機作品に『素敵なダイナマイトスキャンダル』(18年公開予定)がある。
【監督・脚本】
冨永昌敬
【キャスト】
臼田あさ美
太賀
浅香航大
若葉竜也
大友律
清水くるみ
岡田サリオ
光石研
オダギリジョー原作:魚喃キリコ『南瓜とマヨネーズ』(祥伝社フィールコミックス)
製作:『南瓜とマヨネーズ』製作委員会
制作プロダクション:スタイルジャム
配給:S・D・P 2017/93min/カラー/シネスコ/5.1ch
映画『南瓜とマヨネーズ』は 2017年11月11日(土)より新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー!公式サイトはこちら。