アカデミー賞の前哨戦!トロント映画祭で『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』が観客賞を受賞!

JALEE編集部

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 トロント映画祭が、現地時間17日(日)に閉幕した。アワードシーズンの予測上、重要な位置付けにあるこの映画祭では、今年も数々の秀作が上映されている。この中のいくつかの作品の出演者や監督が、これからオスカーにかけての数ヶ月、かなり忙しくなることは確実だ。トロントの観客賞がアカデミー賞作品賞につながったケースは、この10年の間に3度(『スラムドッグ$ミリオネア』『英国王のスピーチ』『それでも夜は明ける』)。昨年の『ラ・ラ・ランド』も、ぎりぎりまでオスカー最有力と考えられていた。今年、観客賞を手にしたのは、マーティン・マクドナー監督の『Three Billboards Outside Ebbing, Missouri』。娘を殺された母親(フランセス・マクドーマンド)が、捜査に手こずっている警察にしびれを切らし、警察に喧嘩をふっかけるという、かなり辛辣なブラックコメディだ。筆者にとっても、今年最も気に入った1本で、この受賞には文句なしである。同じくらい好きだったトーニャ・ハーディングの伝記映画『I, Tonya』は、次点。もう1本の次点は、ルカ・グァダニーノの『Call Me By Your Name』だった。
 

『The Shape of Water』(2018年日本公開予定)©Courtesy of TIFF
 
 先のヴェネツィア映画祭で金獅子賞を受賞し、トロントでも大絶賛を受けたギレルモ・デル・トロの『The Shape of Water』が漏れたのは、やや意外なところ。デル・トロは、『The Shape of Water』を含め、過去に4本をトロントで撮影しており、家も持っていて、ローカルに強く支持されているのだ。トロントでのプレミアには、市長が舞台挨拶をしたほどである。口のきけない掃除婦(サリー・ホーキンス)が、職場に研究目的で運び込まれた恐ろしいクリーチャーと心を通わせるという、恋愛、ホラー、コメディ、ミュージカルの要素が絶妙に混ざった、まさにデル・トロにしか作れない映画。ここでの受賞を逃したとはいえ、今後のチャンスは、十分にある。
 

『Suburbicon』(2018年春 日本公開予定)©Courtesy of TIFF

 
 ほかに、ジョージ・クルーニーが監督を務めた『Suburbicon』、アレクサンダー・ペインの『Downsizing』、アーロン・ソーキンの監督デビュー作『Molly’s Game』、ジョー・ライトの『Darkest Hour』、ショーン・ベイカーの『The Florida Project』など、多数の話題作が上映された。中でも最も賛否が分かれたのが、ダーレン・アロノフスキーの『mother!』だ。

 主人公は、詩人の夫(ハビエル・バルデム)と一軒家で静かに生活する妻(ジェニファー・ローレンス)。ある日、医師を名乗る、見知らぬ男性が訪ねてくると、夫はなぜか寛大に彼を迎え入れる。次にはその男性の妻だという女性が、続いて彼らの息子たちもやってきた。そこから奇妙なことが起こるようになり、家は大混乱状態となって、彼女はどんどん不幸になっていく。

 不快なシーンが多数ある上、ストーリーも意味をなさないのだが、批評の中には好意的なものもあった。しかし、今週末、北米で劇場公開されると、観客の評価はFで、興行成績もジェニファー・ローレンスのキャリアで最低の結果に。今作の賞レースでの命は、もう絶たれたと言って良さそうだ。

 

猿渡由紀/L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、日本のメディアに寄稿。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。