気がつけば、すっかり秋ですね。これから肌寒い日が続くと思うと何もかも億劫になってしまいがち。けれど、やっぱりブランケットにくるまりながら素敵な映画が見たい!という方も多いでしょう。
今回は、秋の虫の声を聞きながらゆっくりと味わえる作品をご紹介したいと思います。ややネタバレもあるので、まだこの映画を見ていない方は気をつけて!
【ニュー・シネマ・パラダイス(1988)】
しっとりとした季節を、気持ちもしっとりと楽しみたい。そして秋の過ごしやすい陽気の中を歩くように、優しく穏やかな気持ちにもなりたい。そんな時はイタリアのおしゃれなヒューマンドラマ映画を見てはいかがでしょうか。
その前に・・・
〜今宵のお酒&おつまみ〜
アペロールソーダとシーチキン乗せバケット
・アペロール……30ml
・ソーダ……90ml
・レモン……適量
【作り方】
1. 大きめの氷(分量外)をグラスに入れ、アペロールとソーダを注ぎ、軽く混ぜる。
2. レモンを少し絞って完成。
【イタリア気分を盛り上げるためにカタチから入っていこう!】
アペロールはイタリア発祥のリキュールの銘柄。本国イタリアでは食前酒として親しまれています。ソーダで割ってレモンを足すことで、さっぱりとした甘口のカクテルに。このお酒を引き立てるためには少し塩気が欲しいところです。そこでバケットに載せたシーチキンなどをご一緒に。
温かく懐かしいイタリア映画を見るための雰囲気作りは、これで完了!
【温かなドラマの中にひそむ、頑固でも優しいオヤジ心】
映画監督のサルバトーレ(マルコ・レオナルディ)が故郷のジャンカルド村に帰省するところから、物語は始まります。
幼少期、トト(サルバトーレ・カシオ)と呼ばれていた彼は村にある唯一の映画館「パラダイス座」に通いつめ、老年を迎えた映写技師アルフレード(フィリップ・ノワレ)を尊敬していました。堅物だったアルフレードは映画に情熱的な少年・トトを徐々に受け入れ始め、2人は固い絆で結ばれていきます。ある日、野外上映を行ったときフィルムが発火するという出来事が。パラダイス座が火事で燃える中、トトは映写室にいるアルフレードを助け出しましたが、アルフレードは失明してしまいます。再建された「新・パラダイス座」では、トトがアルフレードの代わりに映写技師になるのです。
青年になったトトはエレナ(アニェーゼ・ナーゾ)と恋をし、失恋もします。そのたびにアルフレードは相談にのってくれていました。彼に小さな村を出るよう言われたトトは旅立ち、映画監督になって成功していき、のちに母からアルフレードの訃報を聞くのです。30年ぶりに故郷に帰ったトト、つまりサルバトーレは、アルフレードからの形見をもらいます。それはサルバトーレを優しさで包み込むもので・・・。
古き良きイタリアの片田舎を舞台にした本作は、ミニシアター映画時代を盛りあげた傑作。
「老人と子供」という、見るからにほほ笑ましく、感動を呼びそうな組み合わせをテーマにした映画ですが、薄っぺらな言葉だけでは収まらない濃密な関係が描かれています。父を戦争に送り出され、家族は母と妹という女性ばかりの環境で育っていくトトにとって、アルフレードは父であり師匠であり、尊敬できる唯一の大人でした。そしてアルフレードの強い言葉は、トトの将来に大きな影響を与えます。今の世の中には、こんな立派な大人はなかなかいないとすら思えるほど。ラストシーンは、アルフレードの粋な「オヤジ心」で彩られており、トトに対する本物の愛情が現れているからこそ、感動できるのです。
ジャンカルド村で恋をして両思いになったトトとエレナは、エレナの父の反対で結ばれることがありませんでした。その後のエレナはどうなったのかというと、実は彼女はトトがバカにし続けた幼なじみのボッチャと結ばれているのです。幼少期トトから学校でからかわれ、さらに高校時代にはトトに先を越されてエレナを奪われるという悲しい運命をたどりますが、最後は報われるボッチャ。こんなところにもジュゼッペ・トルナトーレ監督の優しさとユーモアを感じます。
【懐かしさを思い出し、疲れた毎日を改善するきっかけに!】
トトとアルフレードがいた時代、小さな町では映画館だけが唯一の娯楽でした。この作品を見直すのは、ケータイやパソコン、SNSの情報であふれかえった私たちの生活を見直すのにもいい機会です。アペロールソーダにほんのり酔いつつ、シーチキンをオシャレにキメて、今宵はちょっとだけノスタルジックな気分にひたってみては?
Text:芥川奈於
Illustration:のむらあい