今年の第90回アカデミー賞ノミネーション発表は、1月23日。果たしてどの作品が候補入りを果たすのか、映画ファンは胸をときめかせていることだろうが、アカデミー関係者は、別の意味でドキドキしている。「白すぎるオスカー」状況が、今年、再び起こるかもしれないのだ。「白すぎるオスカー(#OscarsSoWhite)」批判は、2015年と2016年、2年連続で演技部門の候補者合計20人が全員白人だったことから起こったもの。これを受けて、アカデミーは、意識的に有色人種の新会員を多数入れるなど、即座に対応している。映画が作られるのには長い時間がかかるので、決してその影響というわけではないのだが、幸いにして、2017年は、デンゼル・ワシントン、マハーシャラ・アリ、デヴ・パテル、ルース・ネッガ、ヴィオラ・デイビス、ナオミ・ハリス、オクタビア・スペンサーと、有色人種が7人も候補入りを果たした。
しかし、胸をなでおろしたのもつかの間、今年のオスカー予測が出始めた昨年末、ある専門家が挙げた演技部門の候補者は全員白人で、再び恐怖が湧き上がっている。アワードレースが本格化した今、多少動きが出たが、それでも、今年は圧倒的に白人になる可能性がきわめて高いのは、否定できない。
The Disaster Artist公式Instagram(@ disasterartistmovie)より
今年のゴールデン・グローブ賞で主演男優賞を受賞したジェームズ・フランコ(左)
例えば主演男優部門でほぼ確実とされるのは、ゲイリー・オールドマン(『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』)とティモシー・シャラメ(『君の名前で僕を呼んで』)のふたり。そのほかは流動的だが、ダニエル・ディ=ルイス(『ファントム・スレッド』)、トム・ハンクス(『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』)、ジェームズ・フランコ(『The Disaster Artist』)、ダニエル・カルーヤ(『ゲット・アウト』)らだ。この中で有色人種はカルーヤだけ。賞レース前半では、デンゼル・ワシントン(『Roman J. Israel, Esq.』)も期待されていたが、すっかり勢いを無くしてしまっている。
Three Billboards公式Instagram(@ threebillboardsmovie)より
今年のゴールデン・グローブ賞で主演女優賞を受賞したフランシス・マクドーマンド
そして主演女優部門は、フランシス・マクドーマンド(『スリー・ビルボード』)、シアーシャ・ローナン(『Lady Bird』)、サリー・ホーキンス(『シェイプ・オブ・ウオーター』)、マーゴット・ロビー(『I, Tonya』)が、ほぼ決まり。残り1枠を争うのも、メリル・ストリープ(『ペンタゴン・ペーパーズ〜』)とジェシカ・チャステイン(『モリーズ・ゲーム』)で、白人だらけだ。助演男優部門も最有力7人が全員白人。助演女優はローリー・メトカーフ(『Lady Bird』)とアリソン・ジャネイ(『I, Tonya』)の白人ふたりの争いになりそうだが、メアリー・J・ブライジ(『マッドバウンド 哀しき友情』)またはスペンサー(『シェイプ・オブ・ウオーター』)が、5人目で入ってくるチャンスがある。望みをかけられるとすれば、ここだ。
さらに、ここ数日の間に、フランコの過去のセクハラ疑惑が浮上したことで、主演男優部門に変化が起きることが考えられる。フランコに向かうはずの票が減って、黒人のカルーヤに有利に働くかもしれないのだ。ただし、オスカーノミネーションの投票は、この疑惑が浮上するより前に開始しており、すでにフランコに入れてしまっていた人が多数いたことも、十分ありえる。
鍵を握るのは、カルーヤ、ブライジ、あるいはスペンサー。24日、これらの人の名前が呼ばれるかどうかで、今年のオスカーをめぐる空気は、大きく変わってきそうだ。

猿渡由紀/L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、日本のメディアに寄稿。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。