この秋、人気ドラマ「ブルックリン・ナイン-ナイン」の新シーズンを楽しみにしているアメリカのファンは、ちょっと戸惑うかもしれない。過去5シーズン、FOXで放映されていたこのコメディは、次シーズンからNBCで放映されることになったのである。理由は、FOXが「もうこの番組はいらない」と言ったから。プロデューサーらは、Netflixなども含めて次の局を探し、最終的にNBCに引き受けてもらったのだ。(一番上の写真は、NBCUniversalのUpfrontに勢ぞろいした「ブルックリン・ナイン‐ナイン」のキャストたち)
日本とアメリカのテレビ番組制作は、すでにスタートから違う!
この状況は、日本の方々にはおそらく理解しがたいだろう。日本ではテレビ局が直々にドラマを考案し、制作するのが普通。でも、アメリカでは局は番組企画を売り込まれ、それに応じて発注するだけなのだ。作品を所有するのは制作する人々。だから、こんなことが起きるのである。「ブルックリン・ナイン-ナイン」の前にも、たとえば人気オーディション番組の「アメリカズ・ネクスト・トップ・モデル」は最初CBSだったのがCWになり、今はVH1に変わったし、今年に入ってからも「アメリカン・アイドル」がFOXからABCに変わった。昨年リバイバルで話題を呼んだ大ヒットドラマ「ツインピークス」も、オリジナルはCBSだったので、プロデューサーは当然、最初はCBSに売り込んだが受け入れてもらえず、Showtimeでの放映に落ち着いている。
新作ドラマは第1話だけをお試し制作して、不評だったらお蔵入り…
このついでに、そもそもアメリカでは番組がどのように放映に至るのかを説明しておこう。
先にも述べたように、局は企画を立てず、売り込みを聞く側だ。最近では事情が多少変わったが、伝統的にアメリカのテレビのシーズンは、秋に始まり春に終わる1シーズン。局は、夏から秋ごろに次のシーズンへの売り込みを聞き、これはいけるかもしれないと思った複数のものに、業界用語で「パイロット」と呼ばれる初回だけを作らせる。その発注がだいたい1月ごろだ。それらのパイロットを見た上で、局は、実際にどれを放映するか決め、5月にメディアに向けて発表する。破棄されるパイロットは当然多数あるわけで、日本の感覚からいうと信じられないお金の使い方とも言えるだろう。いざ発注となっても、とりわけ新番組において、局は慎重になることが多く、「とりあえず5話だけ」などということも多い。視聴者の反応を見て、フルシーズン(伝統的には22か23話だが、近年はやや減少している)を発注するというのが傾向だ。
「エクスタント−インフィニティ」公式Instagram(@extant_)より 主演のハル・ベリーとジェフリー・ディーン・モーガン
ただし、エグゼクティブプロデューサーや主演に映画界のメジャーな名前が入っている場合は、彼らを喜ばせる意味もあって最初からフルシーズン発注を約束したりする。たとえばスティーブン・スピルバーグ製作、ハル・ベリーや真田広之が出演した「エクスタント−インフィニティ」がそうだった。だが人気がなければ、無理して一定期間は続けても、ある時には局が終わりを告げる。その時に、プライドなどというくだらないものを捨てて別の局に売り込むかどうかは、プロデューサー次第。そしてそれを受け入れるかどうかは、各局の判断だ。
しかしその新しい局も、数字が出なければあっさりと切る。「ブルックリン・ナイン-ナイン」が来年もまたNBCからウェルカムされるかどうかは、この秋以降の成績にかかっているのだ。そんな命綱をつけたこの番組が今シーズンどんなことをやってみせるのか、ちょっと気になる。

猿渡由紀/L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、日本のメディアに寄稿。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。