現在、アメリカの若者から圧倒的に支持されているファッションブランドと言えばグッチだ。ニューヨークでも電車の中や街を歩いていると、グッチのロゴマークの入ったTシャツやバッグを身にまとった若者を最近特によく見かける。実際、グッチの親会社は、2018年第一四半期の既存店売り上げが48.7%も増えたという。その人気の背景には80年代ファッションの復活が大きく関係している。
グッチ人気の秘密は、80年代にNYで人気を誇った、ダッパー・ダン
このアラフォー世代には懐かしのグッチロゴを全面に押し出したデザインの裏側には、ニューヨーク・ハーレム出身の仕立て屋、ダッパー・ダンの存在がある事をご存知だろうか?彼の名前を聞いてピンと来ない人もいるかもしれないが、(実は私自身ニューヨークに住み始めるまで彼の名前を知らなかった)彼の作品はきっと見たことがあるはずだ。独学で仕立てを学んだダッパー・ダンは、1982年にハーレムでブティックをオープン。当時流行りだった、グッチやルイ・ヴィトンなどのラグジュアリーブランドのロゴをパッチワークのようにつなぎ合わせて、ストリートスタイルの洋服を作っていた。それが、1980年代後半、L.L.クールJやマイク・タイソンなどのヒップホップアーティストやアスリートに支持され彼の名前は一躍有名になったのだ。
ダッパー・ダン公式Instagram(@dapperdanharlem)より
最初はブランド品の再利用を中心に仕立てを行なっていたのだが、顧客が増えるにつれ自らのブランドロゴをスクリーンプリントするようになり、目立ってくるとともに様々なブランドやレーベルから訴えられ、1992年には店舗が閉店。徐々に彼の名前を聞く事もなくなっていった。しかし地元ハーレムで地道に活動を続け、地元セレブとして長年に渡りリスペクトされていた。
2017年のグッチ コレクションで、ダッパー・ダンが思いがけず注目を浴びる
そんな彼が再度注目を集めるきっかけとなったのが、2017年5月に発表されたグッチのクルーズコレクションだった。現在グッチのクリエイティブ・ディレクターを務めるアレッサンドロ・ミケーレが発表したバルーンスリーブのファージャケットが、ダッパー・ダンが1989年にオリンピックメダリストのダイアン・ディクソンさんのためにデザインしたジャケットにうりふたつだったのだ。ディクソンさんは、両者の洋服を比較した写真をインスタグラムに投稿。それが大きな話題になり、再度ダッパー・ダンの存在が知られる事になったのだ。
ダイアン・ディクソン公式Instagram(@dianedixon)より
これに対しグッチは、「パフスリーブのボンバージャケットは、1980年代の有名テイラー、ダッパー・ダンの作品に敬意を示し、その時代のハーレムのカルチャーを祝福するものだ。」と声明で述べ、9月にグッチはダッパー・ダンとのパートナーシップを締結。2017年末にハーレムでテイラーショップをオープンしたのだ。そのショップには、ナオミ・キャンベルやビヨンセ、サルマ・ハエック、タラジ・P・ヘンソンなどのセレブたちが足繁く通っている。さらに今年の春から全世界のグッチ店で彼のコレクションが販売されているのだ。
タラジ・P・ヘンソン公式Instagram(@tarajiphenson)より
現在では、すっかり治安も良くなり家賃もびっくりするぐらい高騰しているハーレムだが、50年前はバイオレンスとドラッグに支配された場所だった。そんな場所で、穴の空いた靴を履いて育ったダッパー・ダン。独学で服作りを学び、そのセンスを56歳にしてファッション業界から認められるなんて、まさにアメリカンドリーム!ハーレムの街を歩くと、彼のアトリエの看板が大きく目立っている。それを見ながら、私も自分なりに頑張ろうと毎回思わされる。

Kay/NY在住TVコーディネーター&プロデューサー
日本のFOXチャンネルで約7年に渡りエンタメ情報番組のプロデューサーを経験した後、フリーランスに。現在はNYを拠点に活動中。アメリカのエンタメと美味しい食べ物をこよなく愛し、NYの最新情報を収集・探検する毎日を送っている。