9月18日(日本時間)に開催された「第70回エミー賞授賞式」には、ペネロペ・クルス(写真上)やスカーレット・ヨハンソンなど、今年も豪華なハリウッドスターが集まった。しかし最大の見どころは、誰もが最も気にしない部門だった。いや、実は、今年のエミーは受賞結果にもサプライズがあり、なかなかおもしろかったのだが、一番やってくれたのは、バラエティスペシャル監督部門を受賞したグレン・ワイスである。
全世界が見守る中、ステージ上で突然のプロポーズに会場騒然
アカデミー賞授賞式番組の監督で受賞したグレンは、娘やプロデューサーへの感謝の言葉で受賞スピーチを始めた。次に最近、母が亡くなったことを述べ、会場にいる恋人に「だけど、君が僕の太陽でいてくれる」と言葉を贈る。ここまではごく普通だったのだが、「どうして君のことを今‘恋人’と呼ばなかったかわかる?僕の妻と呼びたいからだよ」と言ったのだ。突然にして場内は大興奮。全員総立ちとなり、彼女は舞台に上がるよううながされた。そして彼女が舞台に上がると、彼はひざまずき、ポケットに隠していた指輪を出して、全世界が見守る中で、彼女にプロポーズをしたのである。こんなことは、70年のエミーの歴史でも、初めてのこと。脚本になかったこの流れには、ホストのコリン・ジョストとマイケル・チェもびっくりしたようで、後に、「賞をもらえなかった候補者のポケットの中には、渡せなかった婚約指輪が眠っていたりするのでしょうか」とジョークを言っている。
受賞スピーチで愛の告白をしたグレン・ワイス (C)Television Academy
予想を覆す大波乱!作品賞はケーブル局のHBOが一矢報いる結果に
さて、受賞結果のほうのサプライズだが、こちらは、コメディシリーズ部門で最多ノミネーションを受け、日本人のヒロ・ムライも監督賞でノミネートされていた「アトランタ:略奪の季節」(FOXで10/14日正午より2話連続放送スタート)が、手ぶらで帰ることになったのが一番だろう(別日に開催された授賞式ではゲスト俳優部門など3部門受賞)。この部門は、普段ならばHBOの「VEEP/ヴィープ」が最有力なのだが、主演のジュリア・ルイス=ドレイファスの乳がん治療のため、新シーズンの制作が延期され、今年はエミーの対象外だった。だが、この賞をかっさらったのは、Amazon Primeのルーキー番組「マーベラス・ミセス・メイゼル」。「マーベラス〜」は、主演女優、助演女優、監督など5部門で受賞するという快挙を果たしている。
ドラマ部門の主演女優賞を、昨年に続いて受賞が予測されていた「ハンドメイズ・テイル/侍女の物語」のエリザベス・モスでなく「ザ・クラウン」のクレア・フォイが、また助演女優部門も複数の「ハンドメイズ・テイル〜」からの候補者を打ち破って「ウエストワールド」のタンディ・ニュートンが取ったのも意外だった。もらった本人たちも驚きを隠せず、フォイは舞台で「こうなるはずじゃなかったのよ」と言いつつ、一生懸命、うれし涙を隠している。
「マーベラス・ミセス・メイゼル」で主演女優賞を獲得したレイチェル・ブロスナハン(C)Television Academy
今年はまた、ノミネーション数で、17年間連続最多を誇ってきたHBOがNetflixに負けたことも話題になっていたが、受賞の数ではHBOとNetflixの同点で終わった。昨年は、ドラマシリーズ部門作品賞を、史上初めてストリーミング作品である「ハンドメイズ〜」が受賞したが、今年はこの部門もHBOが「ゲーム・オブ・スローンズ」で取り返している。
【放送予定】
「第70回エミー賞授賞式(字幕)」9月23日(日)14:00~17:00、9月30日(日)4:00~7:00ほか
「アトランタ:略奪の季節」10月14日(日)正午より2話連続放送スタート

猿渡由紀/L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、日本のメディアに寄稿。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。