アメリカのエンタメ業界で、マイノリティが活躍するのはなかなか難しい。白人偏重のテレビ・映画業界の中でアジア人が、特に日本人が注目されることは少なかった。しかし最近、アメリカ・エンタメ業界における日系アメリカ人の活躍を耳にする機会が増えている。中でも、映画『007』シリーズ最新作(2020年公開予定)の監督に決まった日系4世キャリー・ジョージ・フクナガ(写真上/エマ・ストーンとキャリー・フクナガ)は、エンタメオタクじゃないアメリカ人からも注目を集めている。
イケメン41歳で独身!キャリー・フクナガ監督に熱視線!
なぜ、注目を集めているかといえば、映画『007』シリーズで米国人監督がメガホンを取るのが初ということと、彼がかなりのイケメンだから!実は、このニュースには私も少しびっくりした。彼の過去の作品を熟知しているわけではないのだが、彼の手がける作品は非常に社会派で、観るのにはそれなりの精神力が必要な映画監督というイメージがあったからだ。実際に、彼がエンタメ業界で世界的に注目を集めるようになったキッカケの映画『闇の列車、光の旅』(2009年)では、中南米の厳しい状況や不法移民、ギャングといった闇の世界で生きる人たちの人間ドラマを描き、サンダンス映画祭で高い評価を受けた。ちなみに、当時の写真を見るとイケメンというよりは、スパイダーマンが変身する前のような、映画好きの内向的な青年という印象。やっぱり、ハリウッドで実力が認められて注目を集めることにより、磨かれ素敵になったのだなと思う。
ロッテン・トマト公式Instagram(@rottentomatoes)より2014年にエミー賞を受賞したときのケリー・フクナガ監督
2010年には、シャーロット・ブロンテの長編小説『ジェーン・エア』をミア・ワシコウスカ主演で映画化。2014年にはドラマ『TRUE DETECTIVE / 二人の刑事』の監督を務め、エミー賞で監督賞を受賞している。映画の世界でもTVの世界でも活躍するようになった彼の勢いは止まらず、2015年には『ビースト・オブ・ノー・ネーション』をネットフリックスで配信。アフリカの内戦を題材にした映画では、イドリス・エルバが主演を務め、数々の賞を受賞した。目を背けたくなるようなシーンがいくつかあり、私的には観るのが精神的に苦痛な映画だった。そんな彼の最新作は、同じくネットフリックスで9月に配信が始まった『マニアック』。エマ・ストーンとジョナ・ヒルが主演を務め、見知らぬ男女二人が危険な臨床実験に挑む”ダーク・コメディ”ドラマだ。アメリカでも評判が良くドラマ好きの中で話題になっている。その公開のタイミングに合わせて発表された、『007』シリーズ監督就任のニュースだっただけにかなりの注目度を集めていた。一つのカテゴリーにとどまらず、常に進化しているキャリー・フクナガ。今後の活躍がますます楽しみだ。
めきめきと頭角を現してきた、ハリウッドの日本人クリエイターたち
キャリー・フクナガの他にも、アメリカのエンタメ業界で活躍する日系人はたくさんいる。有名なところで言えば、ドラマ『アトランタ:略奪の季節』(FOXで10/14放送スタート)の監督、ヒロ・ムライだ。彼の場合は、日系人というよりも日本で生まれ9歳の時にアメリカに移った日本人だ。元々は、ミュージックビデオの世界で認められ、そこでチャイルディッシュ・ガンビーノ、本名ドナルド・グローバー(『アトランタ:略奪の季節』監督・主演)と出会い、ドラマの世界で活躍するようになった。
2018年エミー賞の監督賞にノミネートを果たしたヒロ・ムライ ©AP/アフロ
あまり表舞台に出ることはないが、ネットフリックスでドキュメンタリー部門とコメディ部門の統括を務めるリサ・ニシムラもアメリカ・エンタメ業界には欠かせない日系人だ。元々音楽業界からキャリアをスタートした彼女だが、音楽ドキュメンタリーやアートハウス系などのインディペンデント映画の製作に関わったのち、ネットフリックスに入社。2017年のアカデミー賞短編ドキュメンタリー部門を受賞した、「White Helmets ホワイト・ヘルメットーシリアの民間防御隊」や2018年アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門を受賞した「Icarus イカロス」などのプロデューサーを務めている。
NET-A-PORTER公式Instagram(@netaporter)より。一番左がリサ・ニシムラ
日本人がアメリカ・エンタメ業界で活躍するには、言葉の壁や幼少期から植えつけられて育つ文化的違いなど、様々な障害を乗り越えなければいけない。しかし、アメリカで生まれ育った日系人にしてみれば、言葉の壁や文化的な違いがない訳で、すんなりとその世界に入っていけるのかも知れない。もちろん、本当に才能がないと生き残って行けない世界ではあるが、同じ日本人として、日本人の名前を見かけるとちょっと嬉しくなり、刺激になる。

Kay/NY在住TVコーディネーター&プロデューサー
日本のFOXチャンネルで約7年に渡りエンタメ情報番組のプロデューサーを経験した後、フリーランスに。現在はNYを拠点に活動中。アメリカのエンタメと美味しい食べ物をこよなく愛し、NYの最新情報を収集・探検する毎日を送っている。